貿易実務の基礎知識「インコタームズ」の全11条件を徹底解説!!

あなたは、貿易を行う際の国際規則「インコタームズ」をご存じでしょうか?

インコタームズは、貿易取引でのリスクと費用を誰がどこまで負担するかを示した規則です。全部で11の条件が設定されており、貿易ではその中から1つを選択して取引を進めていくことになります。

つまり、貿易を行う人間が必ず理解しておかなければいけないものなのです。
今回は、そんなインコタームズの概要を説明し、各条件の詳細を解説していきます。
また、2019年に10年ぶりに行われた規則改定の主な内容についても紹介します。

大竹

まずは、インコタームズの概要から確認していきましょう。

目次

ICCによる国際貿易規則、インコタームズとは?

通常の国内取引と異なり、貿易で発生する費用は多岐に渡ります。
輸送費用や輸送中の事故に備えるための保険費用、通関に関する費用や関税などその内容は本当に様々です。

また、貿易には特有のリスクも数多く存在し、誰がどのリスクを負担するのかということも事前に定めておかなければ無用なトラブルを生むことになります。

そのリスクと費用を誰がどこまで負担するかを定めた規則がインコタームズ(International Commercial Terms)です。

この規則は、ICCと呼ばれる国際商業会議所によって定められたものですが、法律や条約ではないため強制力は持っていません。しかし、貿易におけるトラブルを未然に防止するため、国際的な商慣習として全世界で幅広く活用されています。

インコタームズでは11の取引条件が規定されており、売主が売買価格と任意の条件を提示し、買主がそれを確認した上で売買手続を進めるという形が一般的です。

11の取引条件は、「EXW」「FCA」といったように3つのアルファベットを用いて示され、各条件で誰がどのリスクや費用を負担するのかが異なります。 次章では、11条件の詳細を解説していきます。

インコタームズにおける3つの取引条件分類

インコタームズの取引条件は、大きく分けると次の3つに分類できます。

 ・買主へのリスク及び費用負担移転が輸出地で行われるもの
 ・買主へのリスク及び費用負担移転が輸入地で行われるもの
 ・在来船輸送案件に特化したもの

それでは、各分類の詳細を確認していきましょう。

買主へのリスク及び費用負担移転が輸出地で行われるもの

この分類に該当する条件は、下記の4つです。

 ①EXW(Ex Works、工場渡)
 ②FCA(Free Carrier、運送人渡)
 ③CPT(Carriage Paid To、輸送費込)
 ④CIP(Carriage And Insurance Paid To、輸送費保険料込)

4つともあらゆる輸送手段に適合していますが、コンテナ船での輸送や空輸で多く活用されています。
各条件の詳細について、順番に確認していきましょう。

①EXW(Ex Works、工場渡)
EXWでは、売主が所有する工場などで買主へ商品引渡しを行い、その後のリスク及び費用は買主の負担となります。インコタームズの中で唯一、輸出地でのすべての輸送及び通関費用が買主の負担となる条件です。
商品を引取る際に必要となる輸送車両などの手配や積込作業時のリスクも買主の負担となります。
一方、売主には輸出に関する認可の取得や通関時に必要な情報提供への協力義務が課されます。

②FCA(Free Carrier、運送人渡)
FCAでは、売主が指定した場所で買主が指定した運送業者に商品の引き渡しを行われ、同時にリスク及び費用負担も移転します。
基本的に荷下ろしの責任は売主にありませんが、指定された場所が売主の所有施設内だった場合のみ売主の責任により積み込み作業を行うことになります。
輸出通関手続は、売主が手配することになります。

③CPT(Carriage Paid To、輸送費込)
CPTにおける引き渡し方法や通関手続きは、FCAと同じです。
FCAと異なる点は、引き渡し完了後から指定仕向地までの輸送に係る費用を売主が負担することです。

④CIP(Carriage And Insurance Paid To、輸送費保険料込)
CIPにおける引き渡し方法や通関手続きも、FCAと同じです。
CPTで負担した輸送に関する費用だけでなく、保険費用の負担者も売主になります。

買主へのリスク及び費用負担移転が輸入地で行われるもの

この分類に該当する条件は、下記の3つです。

 ①DAP(Delivered At Place、仕向地持込渡)
 ②DPU(Delivered at Place Unloaded、仕向地荷下渡)
 ③DDP(Delivered Duty Paid、関税込持込渡)

各条件の詳細については、下記のとおりです。

①DAP(Delivered At Place、仕向地持込渡)
DAPは、輸入国の指定仕向地での輸入通関前の船上などで、荷下ろしの準備ができた状態でリスク及び費用の負担が移転する条件です。
輸入通関手続きの手配は、買主が行います。

②DPU(Delivered at Place Unloaded、仕向地荷下渡)
DPUは、輸入国の指定仕向地で荷下ろしを行った後に、リスク及び費用の負担が移転する条件です。
荷下ろしの負担が売主となるため、DAPと比較して買主の負担がより軽くなります。
輸入通関手続きを買主が手配することは、DAPと同様です。

③DDP(Delivered Duty Paid、関税込持込渡)
DDPでは、輸入国の指定仕向地での輸入通関後に、リスク及び費用の負担が移転することになります。
通関手続きや関税を含めた税金も売主の負担となり、インコタームズの中で一番買主の負担が少ない条件です。 ただし、売主による通関許可取得が難しいと考えられる場合は、DAPを適用した方が無難でしょう。

在来船輸送案件に特化したもの

在来船輸送案件に特化した条件には、次の4つがあります。

 ①FAS(Free Alongside Ship、船側渡)
 ②FOB(Free On Board、本船渡)
 ③CFR(Cost and Freight、運賃込)
 ④CIF(Cost, Insurance and Freight、運賃保険料込)

それぞれの条件詳細について、確認していきましょう。

①FAS(Free Alongside Ship、船側渡)
FASにおける引き渡しは、指定船積港で船側に商品を置いた時点で完了と見なされ、その時点ですべてのリスク及び費用の負担が移転することになります。
輸出通関手続きは、売主が行います。

②FOB(Free On Board、本船渡)
FOBは、FASで船側配置が基準であった商品引き渡しを、船上配置に置き換えた形の条件です。
船上に商品を配置した時点で引き渡しが完了し、リスク及び費用移転が発生します。

③CFR(Cost and Freight、運賃込)
CFRでは、双方が負担するリスク範囲はFOBと同様ですが、指定仕向港までの輸送に関する費用は売主が負担することになります。
実務では「C&F」と言われる場合もありますが、契約書類には「CFR」を使用するようにしましょう。

④CIF(Cost, Insurance and Freight、運賃保険料込)
CIFも双方が負担するリスク範囲はFOBと同様ですが、指定仕向港までの輸送に係る費用に加えて保険費用の負担も売主になります。

インコタームズ2020への変更により、輸入国内での引き渡しに柔軟に対応

インコタームズ2010から2020への最も大きな変更点は、「DATの廃止」と「DPUの新設」です。

DAT(ターミナル持込渡)とは、輸入国のターミナルで荷下ろしを行い商品引き渡しが完了した時点で、リスク及び費用の負担が移転する条件です。
DPUでは、荷下ろしされる場所がターミナルに縛られなくなったため、あらゆる指定仕向地での荷下ろしに対応できるようになりました。

略語のもとの意味を知れば、条件を理解できる

ここまでインコタームズの全11条件を解説してきましたが、実際に現場で使われるのは一部の条件であることがほとんどでしょう。
そのため、貿易実務の観点からはすべての条件を丸暗記しておく必要はありませんが、検定試験の受験時など記憶が必要な場面もあります。

大竹

そこで、ここでは「3つのアルファベット略語を元の英語に戻して、各条件を記憶する方法」を紹介します。

実は、多くの条件において、3つのアルファベットが表す元の英語は「売主から見たリスク及び費用負担の範囲」を表しています。そのため、その意味を少し深読みしていくことにより、各条件内容の記憶に役立てることが可能です。
以下にいくつか例を示しておきますので、参考にしていただければと思います。

EXW(Ex Works<指定引渡地>)
「Ex」はラテン語で、「~から外へ」という意味を持っています。一方、「Works」は売主の工場を表します。
このことから、「売主は自分の工場(Works)から外へ出た(Ex)のリスク及び費用は負担しない。」という形で記憶することができます。

FCA(Free Carrier<指定引渡地>)
「Carrier」は「輸送業者」のことです。
「輸送業者(Carrier)に商品を引き渡した時点から、売主の負担はFreeになる」という形で覚えられます。

CIF(Cost, Insurance and Freight<指定仕向港>)
「Insurance」は「保険料」、「Freight」は「運送料」です。 売主が負担するCostは、保険料(Insurance)と運送料(Freight)と記憶するといいでしょう。


今回は、インコタームズの取引条件の内容やその記憶方法について説明させていただきました。
貿易実務に携わっている方でも、すべての条件の取引を行うことは少ないと思います。

しかし、インコタームズは貿易実務において、非常に重要となる知識です。

11の条件は、買主へのリスク及び費用の負担移転が輸出地内で行われるのか、輸入地に入ってから行われるのかで分類することができます。

また、コンテナ船ではない在来船での輸送に特化した条件も存在します。
それぞれの条件の詳細は、略語のもとになった言葉を理解すればその内容を記憶することができます。

「売主から見た費用の負担方法」をベースに条件名が設定されていることを覚えておけば、その内容を記憶することはそれほど難しくありません。

頻繁に利用することになる条件については、しっかりとその内容を理解しておくようにしましょう。

大竹

今回紹介したインコタームズに関する基礎知識をしっかりと理解して、今後の貿易実務や資格取得に役立ててください。

セカワク公式YouTubeチャンネル
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この記事を書いた人

大竹 秀明 大竹 秀明 一般社団法人まじめに輸入ビジネスを研究する会 代表理事

1974年生まれ 神奈川県横浜市出身
元ビジュアル系メジャーギタリスト (EMIミュージックジャパン)から34歳の時に貿易家に転身。
資金や語学力がない初心者でもクラウドファンディングを活用した貿易物販ビジネスが構築できる『ひとり貿易』を生み出す。
これまでのプロデュース実績は累計700件・15億円以上。
ひとり貿易コンサルタントとして10年間で1万人以上に講演指導を行い、日本郵便やYahoo!、東京インターナショナルギフトショーなどでも講演。
Makuakeエバンジェリスト・CAMPFIREキュレーションパートナー・GREENFUNDINGパートナーと、史上唯一の3大クラウドファンディング公式パートナーを務める。
「セカイをワクワクさせる貿易家を生み出す」 を理念として精力的に活動中。

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